時間【雑談】

ライブカフェ

その昔、道玄坂にブラックホークという店があった。
百軒店へ折れ、ストリップ小屋の先、どん詰まりの奥に。

シンガーソングライターを中心に廃盤になったものも含めて知る人ぞ知る名盤をかけることで有名だった。愛想のないウエイトレスが運ぶコーヒーは不味く、声高に話すと注意されるような居丈高な店だったが、いい音楽を聴きたい一心で、足繁く通ったものだった。ミドルティーンからハイティーンにかけてのことだ。大人ぶってみたくて馴れぬ手付きでタバコを吸ってみたりした。

ある冬の日のことだった。

私はふと時間が空いてしまい、人伝にレゲエ中心の店になったと聞いて、しばらく足が遠のいていたその店に久しぶりに行ってみる気になった。

ダッフルコートのポケットに手を突っ込み坂を昇った。模様替えした店もあるがその辺りのいかがわしい風情はあまり変わっていなかった。私は妙に安心しながら、目指すブラックホークの前に立った。

「CLOSED」の札の下に貼り紙があった。

           ☆☆☆
    都合により閉店しました。
                店 主
           ☆☆☆

右下の画鋲がとれ、角が丸まって、そっけない文字が風に揺れていた。
私は踵を返し、来た道を戻り始めた。
足早に闇雲に歩いた。

だが迂闊にも他に行くべき場所を思いつかなかった。

+++

あれからもう40年以上にもなるだろうか。
よくいった場所がなくなったり、親しかった友と疎遠になったりするのは
少々淋しいものだ。時の流れを痛切に感じるのもまたそんな時であろう。

◇◇◇

TICKING AWAY THE MOMENTS THAT MAKE UP A DULL DAY
YOU FRITTER AND WASTE THE HOURS IN AN OFFHAND WAY
KICKING AROUND ON A PIECE OF GROUND IN YOUR HOME TOWN
WAITING FOR SOMEONE OR SOMETHING TO SHOW YOU THE WAY

TIRED OF LYING IN THE SUNSHINE
STAYING HOME TO WATCH THE RAIN
AND YOU ARE YOUNG AND LIFE IS LONG
AND THERE IS TIME TO KILL TODAY
AND THEN ONEDAY YOU FIND
TEN YEARS HAVE GOT BEHIND YOU
NO ONE TOLD YOU WHEN TO RUN
YOU MISSED THE STARTING GUN

~ PINK FLOYD の 傑作 THE DARK SIDE OF THE MOON (狂気)収録の「TIME」より。

◇◇◇

気怠い一日の始まりを告げる目覚ましの音
何するでもなく無為に過ぎていく時間
ちっぽけな生まれた町をそぞろ歩くだけ
誰かが或いは何かが行くべき道を示してくれるのを待っている
日差しの中で寝転んでいることに倦みながら
部屋の中から雨が降るのを見詰めながら
君は思う
俺は若く一生は長い
今日やらなくたって時間はあるさ
そして或る日
君は気付く
十年の月日が流れ去り
誰も走れと告げてはくれなかったことに
そう君はスタートの合図を見逃してしまったのさ

◇◇◇

ハヤリものの音楽とは思えない歌詞だが、このアルバムは売れに売れた。
幻想を売るのもアーティストの仕事なら、時には真実を突いて大衆の共感を得るのもまたアーティストの仕事足りえるということか。
南国の年の瀬は季節感に乏しい。

だが待っていたところで誰も区切りなんかつけてくれやしない。
自分は自分であって。
自分以外ではありえないのであって。
その自分を引き受けるのは。
やはり自分しかいないのだから。

mojo

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投稿者プロフィール

60年代~80年代のロックを愛して止みません
賛否両論あって当然!
とにかく読んでみて!ご意見ください

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