裏街の徘徊者【名盤紹介】

「BACKSTREET CRAWLERS」は元 FREE のギタリスト PAUL KOSSOFF がFREE 解散後、生前に発表した唯一のソロアルバムです。僕はこのアルバムが大好きで、1973年のリリース以来、頻繁というわけではないのですが、時折思い出したように引っ張り出しては聴き続けています。
FREE は 60年代末に BLUES を愛する PAUL KOSSOFF とドラマー SIMON KIRK が 不世出のシンガーPAUL RODGERS に出会い、若冠17才のベーシスト ANDY FRAZER を加えて結成されました。重くステディなSIMONのドラムスにタイトかつメロディックなANDYのベースという強力なリズム隊に、レスポールとマーシャルの組み合わせから美しいギタートーンを紡ぎ出し強烈なビブラートを交えて荒々しくむせび泣く様な KOSS のギターが絡み、PAUL のソウルフルなシャウトが映える、ある種典型的かつ理想的ななロックカルテットでした。70年に発表した三枚目のアルバム「FIRE AND WATER」は FREE がそのサウンドを確立したアルバムと言えるのではないでしょうか。ブルースをベースにしながらも、オリジナリティに溢れた楽曲は素晴らしく、非常に纏まったアルバムで、彼等の最高傑作に挙げる人が多いのも頷けるというものです。冒頭を飾る「FIRE AND WATER」で聴くことができるソロなど、アルバムを重ねる毎にむしろ音数を減らし続けたような KOSS ギターはシンプルかつ説得力に溢れ、オーバーダビングされたロングトーンが左右のチャネルから流れてくるのを初めて聴いた時、魂が揺さぶられるような思いがしたものです。「Mr.BIG」のプレイでは、幼い頃クラッシックギターを習っていたという KOSS のバックグラウンドが伺われるようなコードヴォイシングを聴くこともでき、彼の意外といっては失礼かもしれないけれど、奥深い音楽性を垣間見ることもできるといえましょう。このアルバムから「ALL RIGHT NOW」という全米・全英NO.1 ヒットが生まれバンドは成功を収めますが、却ってその成功がバンドにヒット曲を生み出さねばならないというプレッシャーを与え、バンドの内部で方向性を巡って緊張が高まっていったようです。そして KOSS はクスリに手を染め、彼の健康は蝕まれていきました。次のアルバム「HIGHWAY」は地味ながら佳曲揃いのアルバムで個人的には愛聴しました。バンド解散後に発表された「FREE LIVE!」で個人的にはPAULの全キャリアを通じて最高の名唱だと思う「BE MY FRIEND」のオリジナルバージョンも収録されています。しかしこのアルバムのセールスが不調だったことから、バンド内の不協和音は頂点に達し、あえなくバンドは解散してしまうのでした。この後、各メンバーはそれぞれの活動を行うもパッとせず、クスリ漬けになった KOSS を復活させたいというメンバーの友情もあり、バンドは再結成と離散を繰り返すことになります。しかし、KOSSのギターが本来の輝きを取り戻すことはありませんでした。「BACKSTREET CRAWLER」はそんなKOSSが再起を目指して発表したソロアルバムでした。
このアルバムの印象を一言で言うと「混沌」という気がします。アナログ盤当時はA面全部を「TUESDAY MORNING」というインストゥルメンタルが占め、B面もヴォーカル入りは4曲中2曲に止まっており、セッションの寄せ集めという感じは否めません。ヴォーカル曲の内、1曲は盟友 PAUL RODGERS が歌い、もう一曲はこのアルバムに因んで名ずけられた BACKSTREET CRAWLERS で KOSS と行動を共にする JESS RODEN によるものです。
何故このアルバムが好きか問われると正直言って返答に窮してしまいます。アルバムの中でも特に好きな曲は「TUESDAY MORNING」なのですが、ギタープレイに新味がある訳でもなく、曲として優れている訳でもなく、演奏もどちらかというと冗長で荒削りで散漫です。敢えて言うと、それでもこの曲が僕を惹き付けてやまないのはKOSSのギターのトーンのせいと言うしかありません。トレードマークだったレスポールをジャケットにも見えるストラトキャスターに持ち替えてはいますが、そこで聴かれるのは紛れもなく KOSS のギタートーンです。不器用に紡がれる彼のギターの音は、生き方も不器用だったKOSS の魂の叫びのように思えてならないのです。
BACKSTREET CRAWLERSのファーストアルバムではバンドの主導権は明らかに若いJESSとキーボードプレーヤーに移り、KOSSのギターはバンドサウンドの中でむしろ浮いてしまっているという印象を拭えませんでした。1976年 KOSSは、ロスからニューヨークに向かう機中で心臓発作を起こし、帰らぬ人となりました。享年25歳。そのニュースを聞いた時、思わずこのアルバムタイトルを思い出しました。「裏道を這いずる男」。。。折りしも PAUL RODGERS と SIMON KIRK の二人が BAD COMPANY を結成し1973年のデビューアルバムの大成功からスターダムの更なる高みに向かっていった頃のことでした。