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ERIC CARMEN
3分間の魔法
ERIC CARMEN

MTV 全盛になりかけた頃、JOURNEYが出したアルバムのタイトルが RAISED ON RADIO だった。ラジオに育てられた。。。自分達の経験を若いリスナーにも伝えたいという想いだったのだろうが、ビデオクリップを作らないという方針の為かアルバムセールスはコケてしまった。時代はもはや後戻りできないところまで進んでしまっていたのだ。時計の針は誰にも逆さに回すことはできない。
とはいえ、ラジオ全盛期のポップスは3分以内という放送時間内にどれだけリスナーにアピールできるかという点で、アルバム主体となりコンセプトアルバム・トータルアルバムが幅を利かせ始めた時代とはまた違った意味で、一曲、一曲のポップミュージックとしての魅力に磨きがかけられていたと思う。もっと言えば、ビデオクリップが当たり前になったことにより映像表現と一体となった新たな魅力を獲得した代わりに、、リスナー自身のイマジネーションは制約を受けることにもなった。JOURNEYが訴えたかったのはそれだろう。
あの頃のヒット曲には不思議な力があって、一瞬にして過去のある瞬間に自分を連れ戻してしまうのだ。曲が呼び起こすものは情景であったり、匂いであったり、或いは雰囲気のようなもの気分のようなものだったり。ひょっとしたら、誰しも自分だけの「時計の針を逆さまに回せる魔法使いのような存在」というものを持っているのかもしれない。僕自身にとっては ERIC CARMEN という人がそんな存在の一人だ。
深夜、家人が寝静まった頃ベッドに潜り込みながらつけたラジオからイヤホーンを通して流れてきた音楽。多感な頃の漠然とした異性への憧れ。。。やまだ見ぬ恋人に伝えたい思い。。。そんな気持ちを3分間に凝縮して表現してくれる人。ERIC CARMEN は正に3分間の魔法使いだった。
音楽に対する感動に理屈なんてない。それが呼び起こす胸がキュンとなるような甘い疼きや、背筋がゾクゾクするような興奮や、我を忘れるほどの高揚感や。あの頃、僕がもう大人だったら彼のナルシシズムが鼻についたかもしれない。でも、僕はまだほんのコドモだったし、彼の音楽を耳にすると僕のココロはあの頃のコドモに返ってしまうのだ。いい歳をしてと思う自分がいる一方で、素直になれよという声も聞こえる。
ERIC CARMEN は RASBERRIES のリードシンガー・ベーシストとして70年代初頭に人気を集めた。最初のスマッシュヒットとなった GO ALL THE WAY はストーンズのようなリフ、フーのようなディストーションサウンド、ビートルズのようなメロディ、ビーチボーイズのようなコーラス、まるでポップスのショーケースのようだった。そしてERIC の鼻にかかった甘い声とシャウトは女の子ならずともノックアウトされる程魅力的だった。続く I WANNA BE WITH YOU も同様のテイストのアップテンポの勢いのあるナンバー。そして LET’S PRETEND。スローテンポのバラードは歌詞もサウンドも砂糖菓子のように甘く、切なかった。青春という青臭い言葉がてらいなく似合う類希なバンドだったと思う。お小遣いを遣り繰りしてシングル盤を買い込み夢中で聴いた。
RASBERRIES が解散しソロとなったERICが75年に発表したファーストソロアルバムからは ALL BY MYLSEF が大ヒットした。よく言えば壮大な、悪く言えば大袈裟なアレンジが施されていたが、僕にとっては忘れられない名曲。いつだってこの曲を聴けばすぐさまあの頃のキモチに戻ってしまう。
3分間の魔法は健在だ。